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東京高等裁判所 平成4年(ネ)394号 判決

控訴人(被告)

株式会社横浜油脂運輸商会

ほか一名

被控訴人(原告)

有限会社井出運輸商事

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して、金二四三万二二九七円及び内金二一八万二二九七円に対する平成二年四月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審ともこれを一〇分し、その六を控訴人らの、その余は被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件は、交通事故により破損した被害車両の所有者が、加害車両の運転者に対しては民法七〇九条に基づき、その雇主に対しては民法七一五条に基づき各四四〇万九一五七円及び弁護士費用を除いた四〇〇万九一五七円に対する不法行為の日である平成二年四月三日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成二年四月三日午前五時四〇分ころ

(二) 場所 川崎市川崎区小田七丁目三番四一号先路上

(三) 加害車両 控訴人奥寺運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 津田寿幸運転の大型タンクローリー(被控訴人会社所有)

(五) 事故態様 津田運転の被害車両と控訴人奥寺運転の加害車両が接触し、被害車両が電柱に衝突して破損した。

2  控訴人奥寺は控訴人会社の従業員であり、本件事故は控訴人奥寺がその事業の執行中に発生した。

二  争点

控訴人らは、控訴人奥寺の過失及び損害額を争うほか、控訴人奥寺に右事故発生につき過失が認められる場合に過失相殺を主張している。

第三争点に対する判断

一  控訴人らの責任

甲第二一、第二四号証、乙第一号証の二、第二号証、第三号証の一ないし六、第四号証の一ないし一四、証人津田の証言、控訴人奥寺の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故現場付近は片側四車線の道路で、最高速度は時速五〇キロメートルと指定されていること、控訴人奥寺は右道路の第三車線を加害車両を運転して時速約七〇キロメートルで、津田はその約一一・五メートル後方より第二車線を被害車両を運転して時速約八〇キロメートルでいずれも横浜方面から東京方面に向けて進行していたこと、控訴人奥寺は、本件事故現場直前になつて、第三車線から第二車線に進路変更しようとしたこと、その際、同控訴人は、後方の安全を十分に確認しないまま、進路変更の合図をしただけで、第二車線に約七〇センチメートル入つて進行したため、自車左側後部を津田運転の被害車両の右前部のタイヤ付近に接触させ、本件事故を発生させたことが認められる。

右認定の事実によれば、控訴人奥寺には、本件事故発生につき後方の安全を十分確認しないまま進路変更をした過失があるものと認められるから、同控訴人は、民法七〇九条に基づき、また、前記のとおり控訴人奥寺は控訴人会社の従業員であり、右事故は控訴人奥寺がその事業の執行中に発生したものであるから、控訴人会社は、同法七一五条に基づき各自被控訴人が被つた損害を賠償する責任がある。

二  損害額

1  車両修理費(請求額三二二万二八三三円) 一九四万一五四八円

(一) 被害車両のうちタンクトレーラーの修理費 五四万七五四八円

甲第二、第三、第六号証及び被控訴人代表者の尋問の結果によれば、被控訴人は、右タンクトレーラーの修理費として五四万七五四八円を要したことが認められる。

被控訴人は、右のほかに塗装代として五万円を要した旨主張し、これに沿う被控訴人代表者の尋問の結果が存在するけれども、これを裏付ける証拠は存しないからそのまま採用することはできず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

(二) 被害車両のうちトラックターの修理費 一三九万四〇〇〇円

甲第五号証、乙第一四、第一五号証及び証人吉澤正孝の証言によれば、被控訴人は、右トラックターの修理費として二六二万五二八五円を要したこと、他方、本件事故当時の右トラックターの時価は、財団法人日本自動車査定協会の査定によれば、右修理費を下回る一三九万四〇〇〇円であつたことが認められる。

ところで、破損車両の修理費が事故当時の時価を超える場合には、その賠償額は、特段の事情のない限り、その時価を限度とすべきであると解するのが相当であるところ、乙第一〇号証、第一一号証の一、二によれば、同種のトラックターを中古市場において取得することは可能であることが認められるから、被控訴人の請求のうち本件事故と相当因果関係にある修理費は一三九万四〇〇〇円と認めるのが相当である。

2  諸経費(請求額一万八四二〇円) 一万八四二〇円

甲第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし七、第一二号証の一ないし四、第一三号証の一ないし六、第一四号証の一ないし三及び被控訴人代表者の尋問の結果によれば、被控訴人は、被害車両の修理のための回送費等の諸経費として一万八四二〇円を要したことが認められる。

3  休車損害(請求額七六万七九〇四円) 七六万七九〇四円

甲第五、第七号証、第八号証の一ないし三、被控訴人代表者の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被害車両は、平成二年五月一〇日その修理を完了したこと、右修理に要した期間は、破損の部位、程度等に照らして相当なものであること、被害車両による事故前三か月間の売上高、経費及び本件事故による休車損害は、別紙休車損害計算書のとおりであると認められる。

したがつて、本件事故による休車損害は七六万七九〇四円となる。

4  合計額(請求額四〇〇万九一五七円) 二七二万七八七二円

三  過失相殺

乙第一号証の二、証人津田の証言、控訴人奥寺の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、津田が制限速度をはるかに超過する時速約八〇キロメートルで被害車両を運転していたこと及び同人が前方を進行していた加害車両の動静に対する注視を怠つたことも、本件事故の発生に寄与しているものと認められる。

右認定の事実に前記一認定の事実を合わせると、右事故は、津田と控訴人奥寺の双方の過失が競合して発生したものということができ、その割合は、控訴人奥寺の過失を八とすれば、津田のそれは二とするのが相当である。

そこで、右過失割合にしたがつて過失相殺すると、被控訴人の損害額は、二一八万二二九七円となる。

四  弁護士費用(請求額四〇万円) 二五万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は二五万円とするのが相当である。

第四結論

以上のとおり、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対し、各二四三万二二九七円及び弁護士費用を除いた二一八万二二九七円に対する不法行為の日である平成二年四月三日から完済まで年五分の割合による金員の支払を求める限度において認容し、その余は失当として棄却すべきであるから、これと異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 時岡泰 大谷正治 板垣千里)

休車損害計算書

1 被害車両による1日当たりの利益

事故前過去3か月の被害車両による売上高、および経費は次の通りである。

〈省略〉

従つて、過去3か月間の被害車両による利益は

3484418-(243073+313220+1109319)=1818806円

1日の利益は3か月を90日として

1818806÷90=20208円

2 休車期間

平成2年4月3日から同年5月10日までの38日

3 結論

20208×38=767904円が休車損害の額となる。

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